「森沢さん、個人的なことだけど聞いていいかな?」
彼は、そういいながら、もう一度態度をあらためた。

「はい」

ちょっと、言葉を選んでためらっていたけれど、彼の口から発せられた言葉は正直な言葉だった。


「結婚したら、仕事どうするの?」


「どうするのって……」

結婚するって言われても、結婚するってこと自体に実感がわかない。

夫婦になって、高岡さんと一緒に住むんだろうか?
そんなことすら想像できない。

私が答えあぐねていたのを彼の方は、個人的なことを聞かれたことに対する、戸惑いだと思ったみたいだ。

「俺、君の上司だからね。一応、希望を聞いて報告しなければならない」
と彼は、質問した理由を説明する。

「続けるつもりです」
止めるなんて言うと、私の代わりに人を補充されそうだ。

彼は、深くため息をついた。

「君に旦那さんが出来て、そのうちこれが私の子供ですって、可愛い写真を携帯の壁紙にして、見せてくれるんだろうな。それとも、毎年年賀状に、家族で写った写真送りつけてくるタイプだな」

「わかりました。課長には家族の写真を見せるようなことしません」

「なんだ。冷たいじゃないか」