婚約しましたって言うと、ものすごい重要なことを決めた気がするのに。

どこか、他人のことみたいでいまいち実感がわかない。



荻野課長は、ちょっとかしこまるように姿勢を正した。

こんなふうに会議室で二人きりでいると、ずっと前の事を思い出す。

仕事の話をしていた時も、荻野君から向けられた視線に温かいものを感じた。

けれど、今日はその時と違う。
前のように、親しみを感じない。

どちらかというと、無表情だった。

彼が距離を置こうとするのに。

私は、バカみたいに、自分の口元が緩んでしまうのを押さえようと気を付ける。

彼の姿を、好きなだけ見ていられるという幸運。

こんな状況でも、どんな姿でも、彼の姿が目の前で見られるのはうれしい。

本当に。ただ、それだけでとてもうれしかった。

いくらうれしくたって、相手が無表情なのに一人だけにこにこしているのは、どこか場違いな気がする。

だから、私も彼に倣って少し真面目な顔をした。