二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~

お節介だとは思ったけれども、時間を見つけて近くの薬局へ走っていった。
薬の名前を覚えておき、彼が飲んでいた薬と同じものを買い求めた。

オフィスに戻ったときには、彼は席を外していた。
私は、メモもおかず、にデスクの上に薬の入った袋を置いた。

彼が戻ってきた。すぐに袋の存在に気づいて、中身を確かめる。

そこに置いたのが私だと気が付いたみたいで、数分もしないうちに、「森沢さんちょっと」と私を呼ぶ。

彼に手招きされて、会議室に来るように言われた。

ドアを閉めて、冗談ぽく言う。

「まさか、お礼を言うだけでこんなところに?」
わざとこんな言い方をしたのだけれど、彼の方は表情を固くしたままだった。

「座って」
彼は、素っ気なく言っただけで、私の方を見ようとはしない。

下を向いたまま、彼は顔を上げそうになかった。

諦めた私は、素直に言うことを聞くことにした。

私は、荻野課長と向かい合って席に着いている。



彼の目はまっすぐ私を見て言う。

「婚約したんだってね。おめでとう」

「ありがとうございます」

婚約したことを伝えたのは、先週だった。

気持ちとしては、あまり積極的じゃないけれど。

周囲の期待してくれる人たちに、私たちのこと放って置いてください。

そう言えるだけの理由がどうしても見つからなかった。

せめて、ほかに好きな人がいます。
そう言えたらよかったのに。

目の前のこの人は、あの時以来、何も言ってこない。