二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~

彼は、むくっと起き上がって武者震いをした。

「ああ、なんか元気出るなあ。もう一回だけ、喝入れて」

「いいよ。そんなことくらいなら、いくらでも」

今度は、さっきよりも強くたたいてあげた。

「うわーっ」

彼は、体をしゃきっとさせて礼を言った。

持っていたファイルから、資料を取り出して見せてくれる。

「それで、これが具体的な数字なんだけど」

せっかくあけた距離を彼が詰めて来た。


「それ、ちょっと見せてくれる?えっと」
彼が自分の手元に資料を置くから、近づくしかない。

「見て欲しいのは、ここ」
彼が指で示す。

よく見えないって。

資料、こっちによこして。
紙を引っ張ろうとすると、子供が意地悪するように引っ込める。



「ん、もういいよ。ちょっと待って。今メモするから」

「どうぞ」
気前よく彼が目の前に紙を差し出した。

「ちょっと待って、そのまま」

私は、ペンケースの中をあさって下を向いていた。

私の肩に何かが触れる。
温かい。

んん?

ずしっと、重さが加わる。誰かの腕?


顔を上げると、荻野君は私に寄りかかり、腕で私の肩を包いている。

私の体は、彼の体に寄りかかられて、身動きができない。

「荻野君?何やってるの?」

「俺が何してるのか、説明してほしいのか?」
彼は、私の肩の上に顎を乗せた。

「今してることじゃなくて、私が聞きたいのは、あなたがこれから、私にしようとしてることよ」

「この、首筋のとこ。ここにキスしたい」

「ダメ。却下」

「じゃあ、このまま倒れ込んで、膝枕で寝たい」

「こら」

「後は、口じゃ言えない」

「じゃあ、黙ってて」

「んん」

こんなところを他人が見たら、誤解するじゃないの。

なんて思うけど、大きな仕事がまとまった時、ちょっときつめにお客さんから言われたとき、こんなふうにじゃれついて、はけ口を作ってたんだと思う。

この様子だと、彼は私に同じような立場を求めてるのかな。