彼は、私のすぐ横に座っていた。
「森沢さん?」
「なに?」
ただでさえ、近いっていうのに彼は、さらに距離を詰めて来た。
あり得ないっていうほど近い位置に。
膝が触れるくらい近くに、彼が座ってる。
「問題が出てくるようなら、厳しくするからということになってる。
あとの二人もどうなるか分からないし。
三課は、これからだからな。最初は君の不負担が大きいと思うけど、頼むよ」
彼は、内緒話をするみたいに、私の耳に顔を近づけて言う。
私は、彼から逃れるように少し距離を置いて言う。
「もちろん。問題はあるだろうけど、何とかしなくちゃね。そのために頑張って来たんだもの」
「うん……」
といっったまま、ふーっと息を吐きだした。
どうしたの?
彼は、疲れたって時、よくやってたポーズ、両手で顔を覆っている。
思った以上にプレッシャーかかってるに違いない。
上に行けば自分のことだけ考えてはいられない。
その上、三課全体として、相当の結果を残さなくてはならないのだ。
緊張してたの?
顔を上げた彼は、メンバーがいなくなってほっとした顔してる。
「そう言ってもらえると安心するな。やっぱり君が、そばにいるといないとでは違う」
本当に肩の荷が下りたみたい。
私は、何もしてないけど。
私は、よく頑張ってるねっていう意味で、彼の背中をトントンと叩いてあげた。
「そう言ってくれるなら、労ってあげるね。よく頑張りました」
背中をたたくのは、よく頑張ったねっていう時と、よく我慢したねって時にしてあげる、ご褒美のサインだった。
前に、彼がそうして欲しいって酔っぱらった時にそう言ってたのを思い出したのだ。


