息ができない。苦しい。心臓が止まりそう……
どうして?キスなんかするの?
荻野君の体がさらに熱を帯びて来て、余計に具合を悪くさせそう。
彼は、私の心配などまるで頭にないみたいに、欲望のままに唇をむさぼり、何もかも奪って聞くようにキスをする。
髪も、その長い指でむちゃくちゃにして、口紅も拭い去って。
こんなふうになっちゃって。私、どんな顔して席に戻ったらいいのよ。
私の方は、欲望というよりも、彼に対してせつない気分になって拒むことが出来なかった。
彼が自分の希望を言ってくるのは、いつもぎりぎり。気を付けていても、分からないくらい遠回しに言う。
『何が食べたいの?』
『そこのラーメン屋にしよう。前に、食べたいって言ってたでしょ?』
何度聞いても、私が答えて欲しいことを先回りして答えてくる。
『それは、私が食べたいもので、荻野君が食べたいものじゃないでしょ?契約できたお祝いだから、なんか言ってよ』
『俺、何でもいいです』
『何でもいい?ご馳走してあげるんだから、遠慮しないの』
『俺、森沢さんの手料理食べたい』
『私の手料理?急に、なにを言い出すの?荻野君。ああ、でも。もう。前の彼に、作った料理の味付け批判されたから、作れない。無理よ私じゃあ』
『ああ、ごめんなさい。すみません。厚かましいこと言って』
「そういえば、手料理って言ってたのね」冗談だと思ってたんだ。
私、気が付かなくてごめん。
彼の唇が離れて、漏れた言葉が声になった。
荻野君は構わず、私の肌が触れたとことにキスを落としていく。


