運よく近くの会議室が空いていた。
私は、大丈夫だと言い張る荻野君を連れだして、部屋の中に閉じ込めた。
彼の背中をさすって、支えるようにして椅子に座らせる。
ずっと下を向いたまま、床を見つめている。
薬はいらないと言ってたから、
「コーヒーでも買ってきましょうか?」と言って立ち上がった。
私が、ドアのとこまで行ったところで声をかけられた。
「いや、ここに居てくれ」
荻野君に言われて立ち止まる。
「はい」
会議室を予約していないから、誰か入ってくるかもしれない。
いきなり誰かが入って来る前に、予約済みにしておかなくちゃと思った。
「体調悪かったんだね?」
少し、寝た方がいいかも知れない。
そう思って私は、鍵を閉めた。
体温計、借りて来なきゃ。総務にあったかな。
「少し、熱があったくらい平気だよ。ちょっと疲れてるだけ。たいしたことない」
本当だろうか?
私は、彼に近づいて額に手を当てる。
「確かに微熱はあるかも。やっぱり、薬もらってきましょうか?」
「いい、薬なんかいらない」
いきなり、伸びてきた腕に捕まえられた。
「何するの?」
言葉ではそう言ったけれど、聞くまでもなかった。
彼の両手は、頭をガッチリつかみ、唇は求められて重ねられ、声が出せないくらいぴったりくっついていたから。


