しかも、「寄らば大樹の陰」だ。
高岡さんのような完璧な人と、どこかで知り合ってしかも結婚まで考えるなんてことは、私の人生では、最後の機会だろう。この後いくら待ってたって、結婚してもいいという人が現れてくれるかどうか不安だ。
あの通り、高岡さんは人間的にも素晴らしく、包容力のある人だ。いっそのこと、
彼が私でもいいというなら、何も考えず、人生すべて頼ったほうが安心じゃないか。
母や敏子さんが言うように。
『悪いようにしないって、騙されたと思ってウンって言ってごらん?』
敏子さんに、ふざけてこんなふうに言われた。
「悪いようにしないって、いわれてもね。条件で選ぶものか?う~ん」
「条件がどうかしたの?」
荻野課長が、私の後ろからのぞき込むように画面を見ている。
全然気が付かなかったじゃないの。
驚くなあ、もう。
ありがたいことに、前ほど近づいて来ない。
他の同僚と同じ距離を保ってくれてる。
考え込むように課長が言う。
「もしかして、ineさんから何か指摘あった?」
「いいえ。井上さんとは、あれ以来お会いしてませんよ」
「そうだっけ?」
「ineホームさんの件は、課長と新井さんがやるって……」
後ろを振り返った。
彼の視線とぶつかった。
視線は、画面を見ていたのではなかった。
振り返ってすぐに、彼の視線とぶつかった。
彼の目は、まっすぐ私を見ていた。
私の方が気後れしてしまう。
再び目があっても、彼は視線を外そうとしなかった。
これ以上ないというほどの、熱のこもった目で見てくる。
人に見られてもいいというくらいに見つめてくる。
「課長?どうかしましたか」
そんな顔するのやめてくださいというつもりだった。
でも、そんなこと言えなくなった。
だんだん彼の表情が崩れて、泣きそうな、苦しそうな何とも言えない顔に見えて来たから。
「ちょっと、どうしたんですか?具合でも……」
さすがに声をかけた。
自分の顔を両手で覆って、うなだれるように下を向いてしまった。
「少し休みますか?」
「ああ……大丈夫だから」
「ちょっと待って。会議室で少し休んでください」


