「荻野課長に合わせて、仕事帰り食事をしながら話をしましょうか」

課長にそう言ったら、「わかった」と返事が返って来た。

待ち合せるなんて、久しぶりだった。

前の仕事で組んで仕事をしていた時、以来かな。

その時も、こうしてよく二人で食事をした。

おしぼりを手にして尋ねる。

「順調なの?」

「ああ、そうだね。苦戦すると思っていた割には、わりといい反応だったかな」
彼は、それだけ言っただけだった。


「違うって。仕事のことならちゃんと把握してますって」
笑って見せた。

「そうか。そうだね。森沢さんにわざわざ説明するほどの事じゃないか」

「説明して欲しい時もありますよ。どうしていいか分からない時とか」

「うん」彼は、そうだなって頷く。

「私が聞きたいのは……」


「彩香の事だろう?」
間を開けずに言う。

何が聞きたいのか、わかってるくせに。


「ええ。そうです」私も、覚悟を決めて答える。


「別に。何もない。ずっと変わりはないよ」
彼の声が遠くなり、かすんで聞こえなくなる。

「そうですか。彼女、まだ大学生ですものね」

そんなことわかってたことじゃないの。
落ち着けと、言い聞かせる。

「まだ、学生だからじゃないよ。そう意味じゃないんだ」

「自分の方からは何も行動しないってこと?」