母は本当に嬉しそうだった。

このところ、見たことがないほどに上機嫌なほど。

「お赤飯炊こうかしら?」
蒸し器がどこにあったかしら、なんて戸棚を開けて鼻歌まで歌ってる。

「そんなのいらないって……」
母を刺激しないように、出来るだけ、穏やかに言う。

「やっぱり、こういう時は、鯛のお頭付きかしら?」

「それは、大袈裟だって、母さん」

「葉子?母さんね、昨日は、一晩中心配で眠れなかったけど、あなたが一歩踏み出してくれたことは、嬉しく思ってるのよ」そう言うと、

「今度のことを喜んで受け入れるわ」と涙ぐむ。


私は、どう受け止めていいのか困ってしまった。

自分がした、軽はずみなことで、母はよかったと、今まだ見たことがないくらい喜んでいる。

高岡さんと結婚すれば、母がこんなに喜ぶんだと思うと、母に申し訳ない気持ちになった。

このごろ、自分の母親を、こんなにも喜ばせたことはなかった。


このまま高岡さんと、母の希望通りに。
気持ちがぐらついた。

どうにもならない人をずっと思ってるより、日々の生活が不安なく穏やかにできた方がいいのかな。

もう、どうしたらいいのか、分からない。