「森沢さん、ちょっと残ってくれるかな？」
「はい」彼に言われて、立ち上がろうとしてずらした椅子を戻して座った。
「荻野さん、花梨は？残らなくていい？」
ちょこちょこ歩きながら、花梨ちゃんが私の椅子の後ろを通り過ぎていった。
荻野君が彼女に声をかけてる。
「君が必要な時はちゃんと声をかけるから」
勘違いしそうなほどにこやかに笑いかける。
これが本当に、あの荻野君？
あの頃には絶対笑いかけるなんてしなかったと思うけど。
花梨ちゃんに、パシッと腕を叩かれながら、嫌がらずにちゃんと相手をしている。
「ええっ、絶対ですよ」
花梨ちゃんそういいながら、私のことを恨めしそうに見て出て行った。
「ずいぶん好かれてるのね」大変だね。
私は、心から同情した。
「まったく。平田については、いろいろと上の方とのしがらみがあって、こっちも強く言えない。今のところ、俺の言うことを聞いてくれてるけど」
荻野君は、完全にしまってない会議室のドアを閉めなおしてから言った。
彼は、そのまま私の横に来た。
