「お袋、ちょっと待ってくれって。二人でこの話、全然してないんだ」

敏子さんは、一歩も譲らない。

「あら、そう。ならいい機会だわ。これから十分話し合いなさい」
にこやかに言って、息子の意見を退けた。

「ちょっと待って、俺はいいけど、彼女が……」

「そうしたくないのであれば、はっきり理由を言いなさい。こんなことをしたんです。静子さんにはっきり説明しなければね」

「葉子さん、ごめん」
高岡さんが謝った。

「そんなことありません。私が母に連絡しなかったのがいけなかったんです」

「二人ともお似合いよ。ちょうどいい機会ね。これはね、思うに。
きっとこうなったのも、神様の思し召し。
いいご縁だわ」私は、敏子さんに逆らうことなく自宅に帰り、母の姿を見つけると、顔も見ずに謝った。

「ごめんなさい。連絡忘れちゃって」

凄く不機嫌で、てっきり叱られると思ってた。

それが、厳しい表情など少しもない、
「おかえり」と嬉しそうに出迎えられて、私は拍子抜けしてしまった。

言葉が続かない私の代わりに、母は一方的に話し出した。

「そうね。連絡してくれればそれに越したことないけど。
連絡するのを忘れるほど楽しい時を過ごしたんなら……
そういうことなら、私も安心しました。
誠さんならあなたの相手として、十分ですものね」

一人で話して、一人で納得している。

「母さん……ちょっと待って」
私は、慌てて止める。

「不安は誰にでもあるものよ。でも、誠さんがあなたをもらってくれるなんて、夢みたいね。
あなたが生まれてから「この二人、将来一緒になったらいいわね」って、冗談でそう言ったりしたけど。
まさか現実になるなんて。
ねえ、葉子、何も心配はいらないのよ。敏子さんに任せておけば間違いないもの」