「まだ、何も頼んでなかったの?」
彼は、少しだけネクタイを緩めながら言う。
テーブルには、私が注文したビール1つ置いてあるだけだった。
「とりあえず、ビールだけもらったの。お店に人に、飲み物の注文を聞かれたから。そのほかは高岡さんが来てからでいいと思って」
お品書きと書かれた、紙にメニューが書かれているけれども、
よく知らない食べ慣れないものが多くて、
高岡さんが来てから、注文しようと思っていた。
彼は、メニューから顔を上げて言う。
「それじゃ、お腹減ったでしょう?
こういう時は、遠慮なく好きなもの頼んでおいてください。
分からなければ、お店の人に聞くといいですよ」
私は、ありがとうございます。
とお礼を言い、
「これからたくさん食べますから、大丈夫です」と答えた。
しばらくして、高岡さんが言う。
彼は、私の様子を観察して、元気そうだと判断したみたいだ。
「今日は見たところ、元気そうでよかった。この間は……大変だっただろう?」
私は、高岡さんの言葉を遮った。
あまり、思い出したくないことだった。
「ひどかったですものね。お互いに。でも、今日はその話、しないでくださいね。今だって、くじけそうになるのを、何とか、持ちこたえてるだけですから」
「ああ、そうか。そうだよな」
力なく笑うと、彼は黙ってしまった。
考え込むように、テーブルに目を落とす。
「俺も、ビールをもらおうかな」
「はい」


