仕事をして、疲れてるのに母は一から料理を作っていた。

『出来合いの物でいいのに』

『朝作っておいてくれれば、あっためて一人で食べるよ』

高校生の私は、生意気にもそんなことを言っていた。

今なら、こうして頑固に食事を作り続けた母の気持ちが分かる。

そうして、聞きたいことも聞いて来ない胸の内も。



ご飯が炊けた頃、ただいまと言って叔母が帰って来た。

「いい匂い。いいな。帰ったらすぐに食事ができるのって」


「微妙に母と味付けが違うから、美味しくないかもしれないけど」

「そんなことないって、実は姉さんの味付け、ちょっと濃いなと思ってたの」

「やっぱり。そう思う?」
母に悪いなと思いながら、母の作る料理の味の濃いのが、自分であっためると言っていた理由の一つだ。

「でしょう?急いで帰って来てさっと味付けるから、いつもそうなのよ」

「うん、うん。味が濃くても、中々文句は言えなかったな」

「そんなこと言ったら、怖いもんね」

「叔母さんもそう思う?」


「もちろん。ぐうの音も出ないほど、言い返されるから」

「うん。そうだね」

「このくらい、姉さんに躾けられたらどこにお嫁に行っても大丈夫ね」
叔母は、じいっと私の手元を見ながら言う。


「まるでお父さんみたいに言うんだね」

「それはそうよ。私は、ずっと少し離れたところから、あなたの事、父親のように見守って来たのよ」

「うん」

「だから、分かるわよね?」

「はい。分かってます」