仕事が忙しいと叔母の誘いを断ったのも、嘘じゃない。

立ち上げたプロジェクトが軌道に乗るまでは、正直言って家に帰るだけで精一杯で、他の事なんかしたくない。

それでも、叔母の言ってたことが気になって叔母の家に向かう。


家に向かう途中。
近くのスーパーで買い物をする。

商品の少なくなった店の中を、ぐるっと歩き回る。
ほとんど売り切れになった、がら空きの棚を見ながらメニューを考える。


今日出かけるとき、母に叔母の家に泊まるからと言って、鍵を借りていった。

叔母の家は、もともと母の実家でもあるから姉妹で鍵を持っている。

『あら、そう』
いつもと違って、素っ気なかった。

普段なら、実家に持って行って欲しいもの、逆に取ってきて欲しいものなんか、いろいろ用事を言いつけるのに、この時は何も言わなかった。

それも気にかかっていた。

言いたいこと、たくさんあるに決まってるのに。


叔母の家の中に入って、買ってきた煮魚用の魚とお豆腐とあげのお味噌汁を作る。

叔母は、母の味(おばあちゃんの味)をしっかり受け継いだ料理を家で食べる方を好む。

だから、家に来いというときは、たいてい簡単に作れるものを作って叔母の帰りを待っている。

母はすでに引退してしまったけど、叔母はまだ現役の教師だ。

味を調えながら、仕事をしていた母も、こんなふうに食事を作ってたんだなと思った。