会がお開きになって、別のメンバーは、橋田君を励ますからと言って次の店に行ってしまった。

私は、新井さんと二人で帰ることになった。

真面目で口数が少ない新井さんは、じゃあ、行こうかと言ったきり、黙って駅まで歩き始める。
このまま駅まで行くのかと思ったら、新井さんが急に口を開いた。


「森沢さん、荻野課長には伝えたの?」

伝えた?
伝えたって、何のこと?
しばらく考えて、頭に浮かんだことを口にした。

「伝えたってまさか。お見合いしたこと?」
新井さんがゆっくりと頷いてる。

「うん。言わなくていいのか?」
新井さんは、真面目な顔して言っている。


「ちょっと待って。お見合いって言ったって、形だけのものだし、先の事なんかまだ何も決まってないし、この話もどうなるか分からないのに」
私は、慌てて答える。

「森沢さんは、結構冷静だよね。落ち着いてるっていうか。他人事みたいっていうか」

「ん?そうかな」
これのどこが、落ち着いてるのよ。

「だって、女性って結婚とかお見合いとか、そういうことでもっとはしゃいだり、悩んだりするでしょう?」

はしゃいだりする?
みんながみんな、そうだとは限らないと思うけど。

「ちょっと待って、私を冷たい氷のような人間みたいに言わないでください。何も感じてないわけないじゃないですか。それに、会社の人に、言わないだけかもしれないでしょ?」

何、向きになってるんだろう。
大きな声出したって仕方ないのに。

「それは、そうだ」新井さんは、ニヤッと笑う。


「はっきりしたら、伝えます。だから心配しないでください」


「うん。オギ……あいつは、君のことすごく気にしてるよ。だから、君、結婚するなら、なるべくあいつに話してやるといい。結婚のお祝いとか渡すのに、準備がいるし」

私は、唖然として新井さんの顔を見た。

一瞬、何もかも見抜かれてるんじゃないだろうかと焦った。

この人は、どこかずれてると思うけど、まあいいや。


「ありがとうございます。でも、そのことは私と荻野君の問題なので」

「まあ、そっか。お節介か」

「生意気いってすみません」

これ以上、かきまわさないでください。
彼のことは、触れないでそっとしておいてください。

私は、心の中そう願った。