「さっき、」
「…」
「大丈夫だった?」
わたしは、霧島くんの顔を見ずに頷いた。
キスされた事は、黙っていようと思ったから。
霧島くんには関係のないことだと、わたしがそう思わなければ。
霧島くんへの想いは、閉じ込めると決めたんだから。
「良かった…」
「……」
霧島くんはわたしを解放すると、
「ごめん」
と言って、教室の方へ戻って行った。
霧島くんの腕の中が、こんなにも切なく熱く高鳴る場所だったと、今更ながらに思い出す。
霧島くんが何に対して"ごめん"と言ったのか、わたしは理解したくなかった。
◇◇◇
「梨花子ぉ〜、ほら呑んで呑んで!」
「ちょっと亜子、大丈夫⁈呑みすぎだよ!」
「いいのいいの、明日から生まれ変わるんだから!」
「亜子…」
校長室に呼び出された週の金曜日、わたしは亜子からの急な誘いを受け、駅前の居酒屋に来ていた。
《彼氏と別れてきた。駅前で呑んでるから来て〜!》
こんなLINEが届いて無視できる訳もなく、着いた時には亜子はすっかり出来上がっていた。
「もうあんな男、こっちから捨ててやるっつーの!あ〜あ…私の時間を返せ〜!」
「…」
「ねぇちょっと梨花子聞いてるぅ?」
「う、うん。聞いてるよ」
もうずっと、こんな調子だ。
「勝手すぎると思わない?"これで最後にしたい"だなんて。セックスの直後にだよ⁈愛し合った後にだよー⁈」
「ちょ…亜子、声大きいから…!」
周りの客の視線を感じたわたしは、慌てて人差し指を口の前に立てる。
「最初から、愛し合ってなんか…なかったんだよね。私が愛してただけ……」
「………」
亜子の目から、大粒の涙が零れ落ちた。
「私だけだったんだ。それでも…それでも私は良かったのにーーー」
「亜子…」
「さっきまで、あの人に抱かれてたなんて…嘘みたい。悔しいよ、梨花子…」
「うんーーー」
"夢だと思えば、少しは楽になれるかな"
わたしは、いつかの亜子の言葉を思い出していた。
「悔しいよぉー!うわぁーっ!ビールおかわりぃ!」
「…」
わたしは泣いている亜子の代わりに、生ビールを注文した。
「こんな私は、今日までだからね!悔しいし、悲しいし、寂しいけど!明日からは泣かないから!今日で、忘れてやるんだから…!」
亜子は、自分に言い聞かせているみたいだった。
「…」
「大丈夫だった?」
わたしは、霧島くんの顔を見ずに頷いた。
キスされた事は、黙っていようと思ったから。
霧島くんには関係のないことだと、わたしがそう思わなければ。
霧島くんへの想いは、閉じ込めると決めたんだから。
「良かった…」
「……」
霧島くんはわたしを解放すると、
「ごめん」
と言って、教室の方へ戻って行った。
霧島くんの腕の中が、こんなにも切なく熱く高鳴る場所だったと、今更ながらに思い出す。
霧島くんが何に対して"ごめん"と言ったのか、わたしは理解したくなかった。
◇◇◇
「梨花子ぉ〜、ほら呑んで呑んで!」
「ちょっと亜子、大丈夫⁈呑みすぎだよ!」
「いいのいいの、明日から生まれ変わるんだから!」
「亜子…」
校長室に呼び出された週の金曜日、わたしは亜子からの急な誘いを受け、駅前の居酒屋に来ていた。
《彼氏と別れてきた。駅前で呑んでるから来て〜!》
こんなLINEが届いて無視できる訳もなく、着いた時には亜子はすっかり出来上がっていた。
「もうあんな男、こっちから捨ててやるっつーの!あ〜あ…私の時間を返せ〜!」
「…」
「ねぇちょっと梨花子聞いてるぅ?」
「う、うん。聞いてるよ」
もうずっと、こんな調子だ。
「勝手すぎると思わない?"これで最後にしたい"だなんて。セックスの直後にだよ⁈愛し合った後にだよー⁈」
「ちょ…亜子、声大きいから…!」
周りの客の視線を感じたわたしは、慌てて人差し指を口の前に立てる。
「最初から、愛し合ってなんか…なかったんだよね。私が愛してただけ……」
「………」
亜子の目から、大粒の涙が零れ落ちた。
「私だけだったんだ。それでも…それでも私は良かったのにーーー」
「亜子…」
「さっきまで、あの人に抱かれてたなんて…嘘みたい。悔しいよ、梨花子…」
「うんーーー」
"夢だと思えば、少しは楽になれるかな"
わたしは、いつかの亜子の言葉を思い出していた。
「悔しいよぉー!うわぁーっ!ビールおかわりぃ!」
「…」
わたしは泣いている亜子の代わりに、生ビールを注文した。
「こんな私は、今日までだからね!悔しいし、悲しいし、寂しいけど!明日からは泣かないから!今日で、忘れてやるんだから…!」
亜子は、自分に言い聞かせているみたいだった。



