この恋を、忘れるしかなかった。

でも、何でかわからないけど…来てくれた………。
身体から一気に力が抜けたわたしは、恥ずかしさも忘れて涙を流していた。
「離れろって言ってんだろ」
霧島くんの口調は、落ち着いていた。
「え、霧島サンには関係ないで…」
「この事バレたら停学か、最悪退学じゃね?」
霧島くんがゆっくりと、でも力強くわたしの腕を掴み、佐倉くんからひきはなしてくれた。
「じゃあ霧島サンも退学ですね」
「オレたちは…そんなんじゃない」
「…チッ」
不機嫌を隠そうともせず舌打ちする佐倉くんが、霧島くんの堂々とした言動に押されているのがわかった。
でも、決して他人事ではなくて。
わたしもバレたらきっと…もうこの学校には居られないだろうから。
「先生」
佐倉くんに呼ばれ、身体が固まる。
「先に教室に戻ります。あと、謝りませんから」
「…」
わたしが何も言わないでいると、佐倉くんはそのまま準備室から出ていった。
急に身体から力が抜けたわたしは、その場にへたり込んだ。
そしてすぐに、霧島くんに対して気まずさを感じていた。
「じゃ、オレ行くから」
「え、あ、ありがとう…!でも、何で……」
霧島くんはわたしの顔を見ていたけど、すぐに目を逸らして、
「校長室から出た後、美術室の方に行くのが見えたから」
と言ってから、窓の外の空を見上げていた。
わたしの事を気にして…?
今だけでいいから、そんな勝手なことを思っていたい、そう思った。
「…」
霧島くんには今日の空が、どんな風に映ってるのかな。
「先生」
ふいにわたしを呼ぶ声に、視線が触れ合う。
「気を付けてーーって言ったでしょ」
「え…」
そんな事を言っていたような気がするけど…それって、佐倉くんの事だったの?
「…可愛いんだからさ」
最後にボソっと一言だけ言ってから、わたしに背を向けて歩き始めた霧島くんは、手で髪をクシャっとしていた…。
その背中がだんだんと霞んでいくのは、こぼれ落ちる涙が止まらないからだった。
"さよなら…"
わたしは、どこへも行けないわたしの想いと、どうすることも出来ない霧島くんへの想いを、今度こそ閉じ込めなきゃと思ったーーー。
「き……」
「リカ…」
それなのに…何で、戻ってきたりするの………?
何で、名前を呼ぶの?
何でわたしを……そんな風に抱き締めるの?