この恋を、忘れるしかなかった。

そんな事も、あったな……。
あれは高2の頃だった……登校中で周りにはたくさん人がいたというのに、かまわず”好き”と伝えてきたその彼に、当時のわたしも想いをよせていた。
その時、恥ずかしさでいっぱいになって、俯いたまま何も言えなかったわたしの隣に、亜子がいたんだ。

「今日の梨花子の様子が、手にとるようだわ(笑)」
「なにそれー。いつまででも子供じゃないし。亜子こそどうなのよ?彼氏と上手くいってんの?」
詳しくは知らないけど、前に彼氏ができたと話してくれていた亜子。
「んー、ぼちぼちかなぁ」
でも決まってその彼氏の話になると、はぐらかす亜子。
「ぼちぼちって、亜子はいつもそれじゃん」
「そぉ?ま、そのうちね」
…あんまり話したくないのかな?
いつか亜子の話も聞きたいと思うのだけど。
「ただいま…」
低めの、静かな声で、夫の志朗(しろう)さんが帰ってきた。
「あ、おかえりなさい。亜子ごめん、旦那帰ってきたからまた電話するよ」
「うん。またね。旦那さんによろしくー」
「うん、じゃあね」
わたしは亜子と簡単に挨拶を交わし、ケータイをテーブルに置いた。
「おかえりなさい。志朗さん最近遅いね」
「あぁ、だって今日は…」
「みんなでご飯でしょ?わかってるよ。お風呂どうぞ」
「うん。梨花子は電話よかったのか?」
「亜子だから大丈夫。志朗さんによろしく、って」
志朗さんは、返事をすることなくバスルームへと向かっていった。
最近少し会話が減ってきたわたしたちーーー結婚して3年も経つとそんなもんなのかな、今日の罰ゲームの話も、当たり前の様にわたしの口からは出ようとしなかった。

志朗さんは9歳年上で、出会った頃からその呼び方は変わっていない。
歳が離れているせいか、あだ名や呼び捨てはしたくないし、さん付けが1番しっくりくるからそうしてるだけだけど。