この恋を、忘れるしかなかった。

「何かあってからでは遅いんですよ⁈」
「はい…すみませんでした」
わたしは、深々と頭を下げるしかなかった。
でも本当は、わたしのために悪役を買って出てくれた霧島くんに謝りたかった。
"わたしのため"というのはおこがましいかーーー受験を控えた大事な時期に、問題なんて起こしたくないもんね。
「校長先生、安藤先生と霧島の処分はーーー」
「………」
生徒指導の教員の問いかけに黙り込む校長、わたしはその顔を見ながら祈ることしか出来なかった。
少しの沈黙の後、
「今回は、保留にします」
校長の声が、静かに響いた。
その言葉にホッとしたのも束の間、
「保留だなんて…本当にいいんですか⁈」
納得できていない様子でこちらを睨んでるのは、やっぱり生徒指導の教員だった。
「まぁ、証拠不十分ですからね」
「いやいや、状況証拠というものがですね…」
「だから、安藤先生が霧島くんの家にお邪魔したという事実は、2人ともが認めていますよね?でもそこで何があったのか…誰か見た人は居ますか?」
言いながら校長は、皆の顔を順番に見ていた。
「だからと言って…!」
「今回は、保留にします」
校長は再度、やや強めの声色で言った。
「ーーーですが、次このような事があれば、厳しい処罰は覚悟してください」
「はい」
「申し訳ありませんでした」
わたしと霧島くんは深々と頭を下げ、反論する職員はもう居なかった。

「失礼しました」
わたしは校長室を出ると、美術室のある方へ向かった。
とてもじゃないけど、すぐに教室に戻る気持ちにはなれなかった。
霧島くんは主任に連れられて、3年生の教室の方へーーー。
「………」
一言も、交わせなかったな…。
"もう、やめよう…わたし達は、どうなることも…出来ないの。今なら、引き返せるから。気のせいだった…って、思えるから"
わたしは霧島くんに酷いことを言ってしまったーーーきっと霧島くんは、もうわたしの事なんて…。
あの日ーーー終わったんだから。
それでも残念がる自分自身に感じるのは嫌悪しかなく、崩れそうな心を支えながら歩くわたしの足取りは、いつまでもおぼつかないままだった。
「ふぅ…」
美術室の前まできたわたしは準備室の鍵を開けると、静かに中へ入った。
油絵の具の独特な臭いが纏わりつくーーー不思議と心が落ち着いてきた。