この恋を、忘れるしかなかった。

「単刀直入に聞きますね、安藤先生と霧島くんの関係を教えてください」
「…」
やっぱり…。
「……"先生と生徒"です」
わたしが答えられないでいると、霧島くんが模範回答をしてみせた。
「そういう事を聞いているんじゃないことくらい、分かるだろ!」
生徒指導の教員が、やや荒めに割り入ってきた。
「噂の…事ですか?」
恐る恐る口を開くわたしを見て、校長はため息をついた。
「噂レベルの話ではありません。夏休みの間に、安藤先生が霧島くんの家から出てくるところを見たと、学校に連絡がありました」
え…それって………あの日、だよね。
誰かに見られていたなんて、一体誰が…。
「安藤先生、それは本当ですか?」
「……」
校長の質問に、わたしも霧島くんも黙るしかなかった。
「改めて、あなた達の関係を聞かせてください」
誰が…一体誰に見られていたのだろう。
今はそんなこと考えてる場合じゃない…とにかく否定しないと。
否定しないと、霧島くんに迷惑が…進路にも影響がでてしまう。
「あ、あの…わたしは、」
「本当です」
一瞬、身体が固まるのがわかった。
「安藤先生が、自分の家に来た事は…本当です」
思わず霧島くんの顔を、見上げる。
「…っ」
その堂々とした表情に、熱いものが込み上げてくる。
そして、霧島くんの言葉を聞いた面々は、驚きを隠せるはずもなかった。
それはわたしも例外ではなかったけど、驚きよりも、熱く切ない想いが駆け抜けた。
夏休みの間に、気持ちの整理をつけたつもりだったのに。
「安藤先生は、カメを見に来ただけです」
「…は?」
生徒指導の教員が、力の抜けたような声を出した。
「カメ…ですか?」
「はい」
霧島くんは、校長の質問にゆっくりと返事をした。
「オレ、安藤先生に絵を見てもらっています。その絵のモデルがオレの飼ってるカメで…どうしても実物を見てもらって絵のアドバイスが欲しかったから、オレが安藤先生に無理を言いました」
校長と生徒指導の教員、それから3年生の主任は顔を見合わせた後、その視線をわたしに向けた。
「安藤先生、間違いないですか?」
「ーーーはい。誤解を招く軽率な行動でした」
「はぁっ…」
わたしの言葉を聞くと、校長はやや強めに息を吐き出し、そこからはイラついていることが伝わってきた。