この恋を、忘れるしかなかった。

志朗さんから、"もう二度としない。許して欲しい"と何度か言われたけど、それに対して答える事が…応える事ができなかった。
それは、志朗さんのことを信用していないとかそういう事じゃなくて、霧島くんのことばかりを考えてしまう、わたし自身の問題でもあった。
「…」
廊下の窓から見える空は青いはずなのに、今のわたしにはくすんで見えていた。
「安藤先生ーーー」
「あ…」
声のする方を見ると、わたしの目の前には佐倉くんが立っていた。
「おはよう…ございます」
「うん、おはよう…」
佐倉くんとはあの日以来、積極的に関わる事を避けてしまっていた。
佐倉くんもそうしていた様に感じてたから、突然目の前に現れて正直少し驚いたわたし、挨拶するだけで精一杯だった。
軽く会釈をして教室に入っていった佐倉くんの背中を見送ってから、わたしも教室の中へ入る。
「おはようございます。出欠とるから席についてーー、」
「安藤先生ちょっと」
ざわついていた教室内が落ち着きかけた時、わたしの声を遮ったのは副担任だった。
「自分代わるんで」
「何かあったんですか?」
「すぐに校長室に行ってください」
「…」
校長室というワードに、わたしの中がざわざわとうるさく音を立てていた。
クラスを副担任に任せて校長室まで急ぐその途中、廊下の窓から見える空はやっぱりくすんで見えたーーー。

コンコンコン
「失礼します」
静かに校長室のドアを開けて中を見ると、校長と生徒指導の教員が何やら話をしていた。
「あぁ、安藤先生か」
校長は一瞬だけわたしを見てそう言うと、深呼吸でもするように大きく息を吐き出した。
「校ちょ…」
コンコン
校長室に呼ばれた理由を聞こうとした時、それはノックの音に遮られてしまった。
「失礼します…」
そう言って入ってきたのは、3年生の学年主任と、霧島くんだったーーー。
霧島くんだと認識するとすぐに視線を逸らすーーわたしは、霧島くんの顔をまともに見ることが出来なかった。
それでも身体は正直で、すぐに火照りだすからタチが悪い。
校長が、軽く咳払いをした。
霧島くんも呼ばれたということは、きっとわたし達の噂が理由だろう。
「揃いましたので、始めます」
校長の声に、空気がピリついた。