この恋を、忘れるしかなかった。

「何か、あったの?」
霧島くんは、真顔だった。
「え…」
「だって、何もなきゃ"会いたい"なんて言わないでしょ」
「…」
そうだった、今日はわたしから"会いたい"って霧島くんにーーーそれは、志朗さんと"ゆり"のことが、あったから…。
わたしは霧島くんに、何を求めたのだろう…。
行き場のない思いを、受け止めて欲しかった…?
それとも、志朗さんへの当てつけ…?
「リカ…?」
霧島くん、わたしは……、
「…っ」
「なんで…泣いてるの?」
酷い人間なんだよ…。
きっと心のどこかで、霧島くんなら受け止めてくれる…そんな甘えがあったんだ。
わたしは、霧島くんの気持ちを利用した、最低なやつ。
「ごめんね……」
それでも…会いたかった。
「…会いたかったのーーー」
「何で謝るの?オレも会いたかったから、ラインくれてスゲェ嬉しかったし!」
「でも…っ!」
「明日なんだよね」
霧島くんは、笑顔だった。
「え…?」
「オレの誕生日」
言いながらわたしから離れた霧島くんは、テーブルの上のコーラのペットボトルを開けると、一口飲み込んだ。
「そうなんだ…お、おめでとう」
「うん、ありがとう」
嬉しそうな笑顔を見せてくれた霧島くんに、もう何度目かわからない程、わたしはときめいていた。
「リカ」
こちらに戻ってきてわたしの隣に座る霧島くんに、顔を覗かれる。
「今度はオレが、襲い返してもいい?」
「え?…ん……ッ!」
わたしの返事を待たずに重なる唇は、自分でもわかるくらいに熱くなっていった。
「ちょ…待っ……んんッ…!」
霧島くんの部屋で、霧島くんにキスされて、霧島くんに押し倒されてーーーわたしが、わたしでなくなりそうだった。
「っはぁ…っ、ま、待って…」
やっとのことで霧島くんを押し退ける。
「もう待たないよ、オレ」
「………っ」
それは、"ずっと我慢してきた"ーーーそんな風にも聞こえて、
「ん……っ!」
首筋へ滑り落ちてきた霧島くんの唇の感触が、わたしをどこまでも高揚させようとしていた。
「リカーーー」
その瞬間聞こえた何かが堕ちてゆく音に、わたしは"わたし"を取り戻す。