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夏休みーーーわたしは通常勤務だけど、生徒たちが休みのおかげで普段より少ない仕事量で済んでいる。
残業なしで帰れるのも有り難かった。
ただ、霧島くんに会えない事が無性に淋しく感じられて、どう頑張ってもこの気持ちが変わることはなかった。

「何…してるかな」
ぽつりと呟いた言葉が、リビングを彷徨う。
今日は土曜日で学校は休みーーーでも志朗さんは、受け持っているバレー部の試合が近いとかで今日も学校に行っていた。
晩ご飯もいらないって言ってたから、今日はのんびり過ごそう…。
家事がひと段落した10時半頃、部屋着のまま()れたコーヒーを一口飲み込んだ時、
「………?」
聞こえたのは、ブーッブーッという何かが振動している音。
もしかして…志朗さんのスマホ?
忘れるなんて珍しい…。
「あ」
志朗さんに忘れられたスマホは、ソファの上のクッションの隙間から半分顔を出していた。
ポケットから落ちたのかなーーー振え続けるスマホを手に取ると、意識せずともその画面に視線が向く。
「…」
だれ………"ゆり"って誰ーーー?
わたしの全てが固まって、画面から目を逸らせなかった。
"浮気"、"不倫"ーーーそんなワードが真っ先に浮かぶ。

固まった身体が再び動けるようになったのは、何秒後…何分後…わからない……わからなかった…。
わたしの手の中からすり抜けたスマホが、ゴトン!と音を立てなければ、わたしは今も固まっていたかもしれない。
早鐘を打つ胸に手のひらを当て、呼吸を整えようと試みる。
「…はぁっ……」
"ゆり"って、誰…?
志朗さんに聞いたら、何て答えるんだろう。
志朗さんの家族や親類に"ゆり"なんて居ない。
学生時代の友達?それとも教え子?
「…」
スマホの着信を見ただけなのに浮気や不倫を疑うのは、きっとわたし自身にも非があるから。
霧島くんーーー…。
仮に志朗さんがそうだとして、わたしにそれを責める権利などない。
ショックを受ける資格も…ない。