「夏休み、リカちゃん先生に会いたい」
わたしの肩に顔を乗せたままの霧島くんの声が、泣きそうなわたしの中に静かに響く。
霧島くんの"会いたい"を、わたしはどう解釈すればいいの…。
「7月中は部活あるから、ここに居るけど…」
「ふーん…」
顔を起こした霧島くんは、何やら不機嫌そうに見えた。
「そーゆう意味じゃないんだけど」
「え…でも、」
美雪ちゃん達と勉強するって言ってたのに。
それに、わたしと霧島くんが個人的に会ったりしたら、絶対にヤバイじゃないの。
「なに?」
「勉強するんでしょ、美雪ちゃん達と」
ラインだって交換してたし。
「するけど、たまにだし」
「…」
美雪ちゃんのことだから、きっと積極的に連絡とかしそうだし。
「あれ、リカちゃん先生やきもち妬いてる?」
「そ、そんなんじゃ…!」
「ホントかわいいね」
いつの間にか霧島くんの機嫌は直り、何故か嬉しそうにわたしの顔を覗き込んでいた。
「大丈夫。美雪には必要な時だけしか連絡しないから」
「…」
「てかオレ部活も補習もないから、夏休みに学校行く予定ないんだよなぁ〜」
そう言われても…。
「それにオレが会いたいの、8月だし」
「8月?何かあるの?」
「うん、オレの誕生石」
「…」
誕生日ーーー霧島くんの、18歳の。
「誕生日がきたら、結婚できちゃうよ」
「もぉっ、何言ってるの…!」
「わはははは!」
楽しそうに笑う霧島くんの横で、わたしの心臓がバクバクとうるさい。
霧島くんの言葉は、どこまでが冗談でどこからが本気なのか…いつもわたしだけが、空回っている気がしてならなかった。
「オレももう帰るね。また明日!」
「…」
わたしは、霧島くんが帰ってからも、しばらく廊下の方を見つめていたーーー。
"結婚できちゃうよ"
出来るわけーーーないよ。