「いや、大学に行く予定だけど」
「霧島くんが就職なわけないじゃん。美雪たちとはレベルが違うんだから」
「そうなんだけどさ、絵の勉強なんかしてるって言うから」
何も知らなかったわたしは、みんなの会話を黙って聞いていた。
「オレだってたまには勉強してるって」
「ねぇじゃあさ、夏休み美雪たちと一緒に勉強しよ?霧島くんが教えてくれたら百人力だよ!」
そう言って、霧島くんに近づく美雪ちゃん。
「う〜ん…」
悩む霧島くんを見ていたら、
「…っ」
一瞬目が合ってドキっとするわたし。
「甲斐と藤井もいるけど、いい?」
「全然いいよ!ね、恵都!」
「えっ、う、うん…」
藤井くんの事が好きな恵ちゃんは、嬉しいような困ったようなーーーその表情は恋する女の子だった。
そんな恵ちゃんを見ていた時、
「じゃぁライン交換したいな♡」
美雪ちゃんが霧島くんのシャツを軽く引っ張りながら、上目遣いで甘えた声を出していた。
あ、あざとい…さすが現役女子高生だわね。
「彼氏持ちのくせに引くわ〜」
「もぉッ、恵都は黙っててよね!」
あははと笑いが起こった後、
「いいよ。じゃぁ勉強やる日が決まったら連絡するわ」
「やったぁ!」
霧島くんと美雪ちゃんは、ラインの交換をし始めた。
「…」
わたしは独り、もやもやとした何かに巻かれているようだった。
霧島くんは誰のものでもないと、懸命に言い聞かせる。

「ねぇ恵都、お腹空いたから帰ろうよ〜」
「はいはい」
「霧島くんも一緒にお昼食べに行く?」
「またにするよ。オレまだ来たばっかだから」
美雪ちゃんの誘いを断ったということは、
「そっかぁ、残念。後でラインするねー!バイバーイ!」
霧島くんはまだ帰らない訳で。
「…」
わたしの横で、美雪ちゃんたちに手を振り返していた。
「もう少し、居てもいい?」
「うん…」
わたしはというと、霧島くんの視線を感じているのに、それに応えられないでいた。
だって…2人きりになった瞬間に思い出される色々な出来事が、わたしの心臓の音を大きくするから。
そしてそれは、わたしを切なく締め付ける。