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期末テストが終わると、夏休みを控えて浮かれる生徒たちが急激に増え始める。

「リカちゃん先生は、夏休み遊びに行ったりとかするのぉー?」
長い髪の毛を触りながら言う美雪(みゆ)ちゃんに、
「今年はないかなー。わたしの夏休みは、みんなみたいに長い訳じゃないしね」
わたしはさらりと答えた。
それに、前にも増して志朗さんとの接点が減っている事もあって、お互いの口から遊びや旅行などというワードが出てくることがなかったのも、理由のひとつだった。
「え、そうなの⁈」
恵ちゃんが驚いた様子で会話に入ってきた。
「うん。お盆の1週間だけだよ。後は順番に有給休暇を取ったりもするけど…あぁ、わたしも40日とか休みたーい!」
「そうなんだねー。まぁ大人なんだから仕方ないじゃん、頑張ってよ」
「うぅ…」
本音をこぼしてみたものの、さらりとあしらう恵ちゃんに返す言葉は見つからなかった。
「それにしても、ここ臭ーい!」
美雪ちゃんがしかめっ面で言った。
「仕方ないでしょ、明日から部活だから準備があるの。ドア開けてるからそれで我慢して」
美雪ちゃんが「臭い」と言ったここは、美術室の隣の準備室。
染みついた油絵の具の独特の臭いは、ドアを開けたくらいではなくならない。
霧島くんが、テストが終わったらスケッチブックを取りに来ると言っていたけど、まだ現れる気配はなかった。

「そういう2人の夏休みは?」
「今年は受験生だから勉強しないとヤバイでしょー。夏期講習とかもあるし、遊びは封印!ね、美雪!」
「え、封印とか無理。美雪は彼氏と旅行行くけど」
勉強しなきゃと言う恵ちゃんに、しれっと反論する美雪ちゃんだった。
「はぁ⁈アンタ少し前まで、重いだとか別れるだとか霧島くんがいいだとか、ウダウダ言ってなかった?」
確かに恵ちゃんの言う通りだ。
「それはそれ、これはこれだもん!」
美雪ちゃんは、呆れ気味の恵ちゃんに向かって口を尖らせていた。
「オレがどうかした?」
「あ…」
廊下からひょこっと顔をだした霧島くんは、いつもと変わらない笑顔だった。