この恋を、忘れるしかなかった。

「やっぱ今日はもう帰ろうかな」
霧島くんはスケッチブックを閉じると、静かに立ち上がった。
「ねぇ、リカちゃん先生」
呼ばれて見上げた霧島くんの顔は、もういつもの霧島くんだった。
「そろそろ、オレのこと信用してくれたぁ?」
「あ…」
"彼女いるくせにっ……信用できない!"
わたしやっぱり、ひどいこと言ったよね。
黙って頷いたわたしを見た霧島くんは、
「なら良かった」
とだけ言って、帰って行った。
霧島くんの真っ直ぐなその笑顔に、
「…」
わたしも好きだと、伝えたかった……。

職員室に戻ると、ヒソヒソと話していたのだろう女性職員が2人、わたしと目が合うと気まずそうにデスクに戻っていった。
「ふぅっ」
小さく息を吐いて座ると、
「気にしない気にしない」
隣のデスクの川本先生が声をかけてくれた。
「ありがとうございます…」
霧島くんとのことは、職員室でも噂になっているのだった。
「人の噂もなんとやら。気にしないことが1番ですよ」
「はい…そうですね」
「だいたい、ちょっと仲がいいからって何って思いません?噂の相手がイケメン君だからひがんでるんですかねー」
「き、聞こえますよっ!」
「あらそぉ?」
川本先生はケラケラと笑っていた。
でも…噂を100%否定できないわたしにとって、川本先生の存在は正直心強かった。
"マジで、好きだから………"
「…」
わたしはさっき、霧島くんと---。
頭が、クラクラする…。
あぁ誰か、思い出すだけでも火照り出す身体の、鎮め方を教えて---。