「せっかくイイ表情(かお)してたのにー」
霧島くんが、少し拗ねたような声をだしていた。
こんなにも思い悩んでいるわたしの、一体どこがいい表情なのよ…。
「オレのこと超好きって表情(かお)してたよ」
「えッ⁈」
「ウソ」
「もぉっ!」
「あはは!」
もうやだ、なんか恥ずかしいし!
わたしばっかり振り回されて…何でそんなに余裕なの?
「これで、ここに来る理由ができたでしょ?」
「…」
わたしを描きに…ってこと?
"今度先生のこと描かせてよ"
いつかの霧島くんの言葉が、思い出される。
いやでも、わたし絵のモデルになるなんて…。
「オレ賢くね?」
だけど、霧島くんが…嬉しそうに笑うから、
「そう…だね」
わたしはもう、それ以上何も言えなかった。
それから霧島くんは、スケッチブックを覗いているわたしの首あたりに手をかけて---、
「霧---」
そのまま引き寄せ、わたしの言葉を遮った。
それは驚くほど自然な流れで、抵抗するどころかずっと待っていたかのように、霧島くんからのキスを受け入れたわたしがいた。
「オレさ、」
唇が離れた後、下を向いた霧島くんが、
「マジで、好きだから………」
独り言のように言ったのが聞こえた。
「………霧島くん」
なんで…こんなにも---締め付けられる……。
「あーもぉ、超かっこ(わり)ぃよねオレ。ほんとごめん」
霧島くんは、頭をクシャクシャっとしていた。
それは、いつも余裕そうに見えていた霧島くんの、意外な姿だった。
「そんなこと、ない…」
霧島くんの気持ちが伝わりすぎて、
「え…」
「そんなこと、ないから」
泣きそうになる…。
ギリギリのところで抑えている気持ちが、溢れないように---。
「…ありがと」
「わたしは何も…」
「ううん。だって、オレのこと突き放したりしないじゃん」
霧島くんは笑顔だったけど、その目は哀しそうにも見えた。
「…」
突き放しもしなければ受け入れもしない---わたしがやっていることは、最低だ。
それに、
"付き合える訳ないじゃない!"
一度は霧島くんを、突き放したのだから。
お礼を言われるようなことは、ひとつもしていない。