この恋を、忘れるしかなかった。

確かにこの子たちから見たら、わたしなんてオバサンのくくりの中に入って当たり前だ。
「年齢的にはそうかもだけど、リカちゃん先生は見た目若いから大丈夫!」
恵ちゃんが嬉しいフォローを入れてくれた。
誕生日がきたら29歳になるわたし、ひとまわりも歳の離れた子に若いなんて言われたら、やっぱり嬉しい。
その反面、確実に歳を重ねていることを実感するのだけど。
こうやって普段から高校生と関わっていると、懐かしさのあまり戻りたい衝動に駆られることもある。
「……」
戻れる訳ではないけど、もしそうなったら……きっと志朗さんとは結婚しないんだろうな、なんて冷めた事を思うわたしがいた。
お見合い結婚が悪いわけじゃないけど…お互い惹かれ合って、ちゃんと恋愛して、たまにケンカもして、それでも大切でーーーそういう風に想える人と結婚したいと、今のわたしは思うから。

「…ッ」
なんでーーー…。
「リカちゃん先生?顔赤いよ?」
「…え?」
美雪ちゃんに指摘され、反射的に手のひらで頬に触れた。
なんで…。
「な、何でもないよ。さぁ、そろそろ職員室に戻ろうかな」
なんでーーー霧島くんの顔が…浮かんできたの……。
「じゃぁ美雪たちも帰ろっかな」
「またねリカちゃん先生」
「うん、気をつけてね。さようなら」
『さようならぁ〜』
美雪ちゃんと恵ちゃんのハモった声が、わたしを見送る。

わたしは……廊下を歩きながら、身体中がドクンと勝手に音を立てているのを抑える方法がないかと、そればかりだった。
「……」
霧島くんとは、スケッチブックのやりとりとメールをたまにするだけの関係。
メールだって、数える程しかしていない。
だいたい歳も離れすぎているし、それ以前に生徒だよ、そういう対象じゃないでしょ。
なのに、なんで……。