この恋を、忘れるしかなかった。

◇◇◇


新学期がくると、わたしはいつもよりも重い足取りで学校に向かった。
別に学校が嫌いな訳ではない、むしろ好きなんだけど、休み明けというのはどうも身体がダルく感じる。
本能ってヤツなのだろう。
「うぅ……寒…」
でも、またあの…霧島くんの絵に会えると思うと、駐車場から学校までの寒さも耐えられた。
「…」
こんなにも……わたしは…。

「おはよ〜リカちゃん先生!」
「リカちゃん先生久しぶりーっ」
職員室に行くまでの間、何人かの子がわたしに声をかけてきた。
「…あ」
その姿をこの目に捉え、思わず声に出してしまったわたしは、慌てて口元に手をあてた。
「…おはよ、先生」
「お、おはよう」
事務室を通り過ぎれば職員室というところで、わたしは霧島くんに会ったのだった。
「先生ウケる」
霧島くんは、慌てた様子のわたしを見て、くすくす笑いながら通り過ぎていった。
「…」
その背中を無言で見送ってから、わたしは職員室に入っていった。
霧島くんのことを考えてたら遭遇するんだもん、びっくりするし。
「おはようございます」
職員室に入り、先生たちとあいさつを交わしながら自分の机にたどり着く。
わたしの机の上には、スケッチブックが置いてあった。
だからさっき、あんなところですれ違ったのか。
「…」
すぐにでも手に取って開きたい衝動を、わたしは何とか抑えこんだ。
それからわたしは始業までの間に、帰省中に買ったお土産をよく関わる先生たちに渡した。

「よし…と」
美雪ちゃんたちの分を残して、わたしは自分の机に戻った。
「おはよう安藤先生。それ、僕のもあるのかな?」
「あ…林先生。も、もちろんです…どうぞ」
わたしは箱の中から、一応地元の銘菓である一口サイズのお饅頭を1つ取り出すと、林先生に差し出した。
「ありがとう。美味しそうだね」
「…ひゃ」
林先生は、わたしの手からお饅頭を受け取る時に、ついでと言わんばかりにわたしの手まで握ってきて、握られた手から全身が固まりそうになった。
「安藤先生、林先生に狙われてません(笑)?」
茶化してきたのは、隣の机に座る川本先生だった。
「やめてくださいよ〜…」
わたしは苦笑いしか返せなかった。
冗談じゃない、わたしには志朗さんって人がいるんだから。
それに、川本先生の方が美人でスタイルも良いんだから、狙うならわたしより川本先生でしょ。