やっぱり誰かと飲んできたんだ。
「寝たのか…?」
わたしが寝たふりをして何も答えないでいると、志朗さんはわたしの身体を撫でてきた。
「……」
そうして気が済んだのか、わたしから離れた志朗さんは、少しすると寝息を立て始めた。
申し訳ないけど、今はそんな気分にはなれなかった…。
頭の中から離れない霧島くんの絵のことを、もう少しだけ想っていたかったからーーー。

仕上がった霧島くんの絵は深みが加わり、本当に素敵な1枚だった。
そして文化祭で展示した霧島くんの絵は、投票で2位という結果を残した。
それから霧島くんは、たまに絵を見せてくれるようになった。
ある日の部活動終了後、職員室のわたしの机の上に、あの小さなスケッチブックが置いてあったことが始まり。
一目で霧島くんのだとわかるその絵に、わたしがコメントを書いた付箋を貼る。
でも…次の日それを返そうと思っていたら、わたしの机の上からなくなっていた。
霧島くんにそのことを謝ったら、「オレ取りに行ったから持ってるよ」って言われてホッとした数日後、また机の上に置かれているスケッチブックを見て、わたしは1人笑顔になった。
霧島くんはきっと、わたしとスケッチブックのやりとりをしている事を、周りに知られたくなくて自分で取りに行ったんだと思う。
もとい、絵を描いていること自体を知られたくないのだろう。
初めて人に見せた……そう言ってたくらいだから。

”美術部に入らない?”
”入らないよ”
”霧島くん髪の色けっこう明るいけど、大丈夫?注意されるんじゃない?”
”オレの髪は地毛だから”
少しずつ仕上がっていく絵と、付箋の中での会話ーーーまるで交換日記でもしているような気分のわたしは、いつの間にかそれが楽しみになっていた。
放課後の生徒たちとのおしゃべりの時間。
その最中に罰ゲームの対象になってされた、好きだという嘘の告白。
スケッチブックでの、交換日記みたいなやりとり。