わたしは志朗さんに、今から帰るとメールをしてから校舎を出た。
「…寒……」
外は真っ暗、昼間は問題なかったニットのアンサンブルにスカートという姿も、この時間になると失敗だったかなと感じる。
上着を持ってこれば良かった……そう後悔しながら駐車場への僅かな距離を歩いた。
コンビニに寄ってから家に帰ると、まだ志朗さんは帰ってきていなかった。
今日は金曜日だから、時間を気にせずゆっくりしているのかも。
暗い部屋に電気をつけると、わたしはまず給湯器を操作してお風呂にお湯を張る。
志朗さんが帰って来たら、すぐにお風呂に入れるように……と言えば聞こえはいいのかも、実際はわたし自身が入りたいからなのだから。
「霧島、響……か」
帰りに寄ったコンビニで買ったお弁当を食べながら、わたしは霧島くんの絵を思い出していた。
文化祭までに仕上げてくるなんて言ってたけど、あのままでもじゅうぶん通用するだろうに。
どんな絵に……なるのかな。
無性に楽しみになってきて、考えているだけで勝手に膨らむ期待と、上がるテンション。
「ふふ。久しぶりに、飲もっかな」
わたしは冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、プシュッと勢いよく開けた。
「苦…」
志朗さんの好みで買っている苦味の強いビールを、眉間にシワを寄せながら飲む。
わたしはもう少しサラっとしてる方が好き。
それでも気分が良かったわたしは、お風呂あがりにもう1本、眉間にシワを寄せながら空にした。

22時を過ぎても志朗さんはまだ帰らなかったけど、いい感じにほろ酔いのわたしは、そんなこと気にもならなかった。
「…」
誰かと飲みにでも行ってるのかな…明日は部活ないのかな……ひとあし先にベッドにもぐり込んでからそんな事を思っていたら、玄関のドアが開く音が聞こえてきた。
そして、しばらくして志朗さんがベッドの中に入ってきた時、わたしは半分夢の中にいた。
「梨花子」
後ろからわたしを抱きしめながら、耳元に声をかけてきた志朗さんからは、少しお酒のにおいがした。