穏やかに微笑み撫でるその手に、何を重ねているのか見て見ぬ振りをしているうちに、彼の手は離れていく。名残惜しさを誤魔化し、這い出る赤を塗り潰して見上げる。

「俺等も行くか」

修人は突然そう言うと、これまでの空気を一新させるかのように、倖の隣にいた蒼が手を上げる。きらきらと、瞳を輝かせながら待ってましたと言わんばかりの表情には、犬にしか見えなくて、尻尾が揺れている。

「行くって」

何処に、という言葉を飲み込んだのは、あまりにも倖の笑みが綺麗過ぎて、嫌な予感がしたからだ。

これは下手に口出しするものではないと、早々に判断した私は先生の背後に回り、距離を取る。

「私、教室に戻るから」

「何言ってるんですか、あなたも来るんですよ」

そんな当たり前のことのように言われても困る。彼の瞳が逃さないと暗に告げているのに、私は先生に助けを求めようとするが、彼は呑気に笑っているだけだ。

ここに味方はいないのだろうか。