「え‥‥?」

「悲しいから泣いているのだろう?
泣くことは心の浄化だ。何の躊躇いがある?」



顔を上げるとそこには確かに、息を取り戻した奏がいた。


起き上がり、私を見つめる瞳は紛れもなくあの優しい瞳だ。



「姫巫女の姿になるのには条件がある。
それは、俺がこの世から去る時、緊急を要した時だ」


「神に仕える‥‥」


「命を繋ぎ止める役目として働く時もある」



それが今回だった。
悲しさも嬉しさも全部ごっちゃ混ぜにされたような気分だ。


何だか感情が追い付かない。


私はちゃんと出来たんだね。



「戻ってきてくれてありがとう‥‥大好きな奏‥‥ありがとうっ‥‥」


「声が聞こえた。名を呼ぶ声が、一人にするなと、水無月の巫女だと、共になりたいと」



昔のように私を抱きしめる彼の腕からは、遠慮がちと言うよりまるで思い出を辿っているような。


そんな気持ちが伝わってきた。



「そうだよ。私はずっとずっと奏に仕える姫巫女だし、ずっとずっと奏が大好きだし、ずっとずっと奏の奥さん何だからね」



あの時のように私の頭を撫でてくれる。
私はずっとこの手のひらが大好きだった。



「月夜の願い、しかと受け取った」



強く抱き寄せ、私たちは口付けを交わした。


涙でしょっぱい味がするけど、嬉しい味だから良いの。


神様の奥さんって何だかくすぐったいね。


深い深い口付け。


私の身なりはもっと美しい着物へと変化していく。


長い髪を束ねてくれる簪は奏と同じものだ。

首に付いた水仙の印は胸元へと移動する。



「月夜の舞はとても心地良かった」



奏の胸元にも私と同じ水仙の印が刻まれていた。


同じ簪、同じ印。


「夫婦だ」


嬉しさが込み上げ私は奏に飛びついた。