「私も行く」


震える手、足をどうにか動かして私は奏の隣に立った。


体を打ち付ける雨からは何とも言えない悲痛な声が聞こえて来るようだった。


「無理はするな、震えている」

「大丈夫、行ける」


今の私はかなり我慢をしている。
だけど奏を1人で行かせたくない。

桔梗は私を欲しがってる。


(なら行かなくちゃ‥‥、)



一瞬、微笑んだように見えた。
だけどいつもの無表情で、桔梗のいる洞窟まで歩いて行く。


桔梗が本殿まで出向かず洞窟に入り浸る理由は、私たちを来させるためだ。


ナツ君が生身の人間ではなかったのは誤算だっただろうけど、必ず消しに来ると分かって、あえて自分から来ずにいる。


そこを狙って、私たちを食す気だ。


怖い。

取り込まれるのは怖い。

だけど取り込まれてしまったら、

もしかしたら、お母さんに会えるかも知れない。

おばあちゃんとおじいちゃんに会えるかも知れない。


そう思うと何だか緊張が解けて行った。