「あ、お供え物」

「それがなんだ」

「裏の世界に来てから、お神楽も祝詞(のりと)も上げてない」


毎日、朝と晩にやるのが本堂家のルールだった。

私は本殿の前に座りいつものように祝詞を上げた。


「お前のその祝詞を俺は毎日聞いてた。神主や巫女の中には、ただ読み上げれば良いと軽い気持ちを持っている人も多いが、月夜は違う。

月夜の上げる祝詞は心からの声であり、もっと聞いていたいと思う程心地が良い。

俺にとって、月夜の上げる祝詞は心地の良い唄に聞こえるんだ」



今までずっと、この声はちゃんと奏に届いていたんだ。

心地良いって思ってくれてたんだ。


(嬉しい‥‥!)



「月夜の声が、俺は好きなのだろうな」



目を閉じる奏は、私の声の一音一音をしっかり聞いて噛み締めているようだった。


(私も、奏の声が凄く好き)


奏の低くて耳に頭に心に響く男らしくて美しい声がとっても好きだよ。