あの出来事があってから桔梗が現れてくる事はなく、雨の降る裏の世界でただ2人だけ本殿でゆっくり過ごしていた。


土砂降りの雨。
屋根を打ち付ける水音だけが静寂の中に響くだけだ。



「少し、昔話をしようか」



どう言う風の吹き回しか奏はポツリポツリと語り出した。



「何年か前に香夜(かよ)と言う女性が自分の娘である月夜と言う女の子にこう言った。

“洞窟には決して近づいてはいけない入ってはいけない”と。

そして香夜は月夜に御守りを渡し肌身離さぬよう約束した。


その晩、香夜は桔梗に取り込まれ彼女の一部となった。

月夜を守るため自らの命を犠牲にした。

全てを見ていた俺は香夜の望み通り月夜の記憶を消したんだ。

香夜は記憶を消す事を望んでいた。


自身を飲み込んでも飽き足らず、約束を破ってまで月夜に手を出そうとしたからな。


それを阻止するために、唄に手紙に導かれぬよう記憶を消した」


「それって、」




それってお母さんが死んでしまった本当の理由。

癌で死んだってお爺ちゃんとお婆ちゃんから聞いたのに。


ほんとは、桔梗が元凶だったって事か。
つまりお母さんは桔梗に飲み込まれた。

お爺ちゃんとお婆ちゃんと同じように。


同じ運命は辿って欲しくないって事‥。