ついさっき、朱鳥と喧嘩をしてしまった。

はぁ……何やってんだろ。

今日は、朝から体の調子が悪く、少しイライラしていた。

それで俺は、朱鳥が俺じゃなくて、陽向を呼んで欲しいって言った事に、嫉妬した。

俺には話せないのに、陽向には話せる事にすごく妬いた。

それで、つい感情的になって、怒鳴ってしまった。

けど、きっとまた理由があったんだよな……

俺には話せない理由。

そういえば、結構前もこんな感じの喧嘩したっけ…

あの時の事は今でも鮮明に覚えている。

真っ赤に染まった朱鳥のシーツ。

腕に繋がれた輸血。

そして、陽向の呆れた顔。

あの時は、どうなるかと思った。

本当に、馬鹿だよな……俺。

プルルルルッ…プルルルルッ

PHSに着信だ。

「はい、清水です。」

"馬鹿楓摩。早く、朱鳥ちゃんの病室へ来い!!"

陽向からの電話。

電話の中から、何やらガチャガチャとした音や、看護師さんたちの声が聞こえる。

あの時の事が蘇ってくる。

心肺停止状態で、陽向に心臓マッサージをされている、朱鳥の姿。

また、朱鳥に何か……

俺は無我夢中で走った。

本当に俺は馬鹿だ。

また、同じ過ちを……

ガラッ

「朱鳥っ!!」

ピッピッピッピッ……

病室には、口に挿管されて、モニターを付けられた朱鳥の姿と、それを心配そうに見守る陽向がいた。

「馬鹿楓摩。何やってんだよ。」

「陽向…………」

「俺が、お前に言われて朱鳥ちゃんの病室に来た時には、朱鳥ちゃん過呼吸になってた。落ち着いて呼吸してって言っても、呼吸は酷くなっていく一方で、朱鳥ちゃんはそのまま意識を飛ばした。」

「………………」

「お前は本当に何やってんの?この前みたいな大惨事にはならなかったけどよ、今回だって、1歩間違ってたら死んでたんだぞ?わかってんのかよ…」

「………………」

「朱鳥ちゃん、泣いてたぞ?呼吸が出来なくて、苦しいのに、"楓摩、楓摩、助けて"って。ずっと言ってたよ?意識が無くなった後もずっと涙を流し続けてて、ずっとうわ言で"楓摩"って何回も呼んでたんだよ?お前は何回、俺を心配させるんだよ。お願いだから、これ以上くだらない喧嘩で、俺を心配させんな……」

「ごめん…………」

「お前は、何回、朱鳥ちゃんの命を危険にさらす気なの?何回、朱鳥ちゃんに辛い思いさせるの?何回、朱鳥ちゃんの事傷つけるの?」

「っ……」

本当にその通りだ。

俺、何回、朱鳥に辛い思いさせたかな……

明日から、治療で、辛い時期だったのに、そんな時に、もっと辛い言葉をかけてしまった。

ほんと、何やってんだ俺…………

ごめん………ごめん…な……朱鳥………………

バタッ

俺は本当に馬鹿だ。

なに、倒れちゃってんだよ……

身体中が熱い…

「はっ!?楓摩!?ちょ、お前っ!!」

「陽向……だぃ…………じょぶ…ごめ……俺…………」

これ以上、陽向に迷惑をかけるわけにはいかない。

だから、立ち上がんないと……

クラクラする頭で、フラフラする足でなんとか、立ち上がる。

だけど……

ガクッ

足の力が抜けて、床に落ちる。

ダメダメだな…俺…………

ここまでは、走って来れたのに…

「楓摩、しっかりしろ。凄い熱だから、とりあえず、処置室運ぶな。」

そう言って、陽向に担がれる。

こんな年になって、誰かに担がれるなんてカッコ悪いな………

朱鳥の事も守れなくて、自分の体調管理すら、できていない。

ココ最近、徹夜し過ぎたかな…

そういえば、ろくに寝てない気がする。

ずっと病院に泊まり込んでたから。

朱鳥の、病気が、あんまり、良くなっていなくて、それで、次の治療の為に、いろいろ調べていて……

「楓摩、処置室着いたから、とりあえず、寝かすぞ。今、解熱剤持ってくるから待ってて。」

「ん…………」

処置室のベッドに寝かされると、だんだん、眠たくなってきた。

俺は、目を瞑って眠る事にした。