「お、楓摩が帰ってきたー!」

「おう、どうした、陽向?」

医局に戻ると、陽向が急いで走ってきた。

「楓摩の愛しの朱鳥ちゃんからお電話ですよ~、早く楓摩に変わって~って言っててさ」

「あぁ!ごめんごめん。すぐ変わる。」

陽向から電話を受け取る。

すると

”ふぅまぁ~!!”

すぐに、グズった朱鳥の声が聞こえてきた。

「どうした?朱鳥、何かあった?」

”…グスッ……怖い…………怖いよ………!!”

「朱鳥、何があったの?」

”吐いたんだけど……”

「ん?吐いちゃった?なら……」

”血”

「えっ?」

”血、吐いちゃった……怖い…お腹痛い…………グスッ”

「吐血したの?えっと、ちょっと待ってて!!今から行く。安静にして、そのまま動かないで。」

朱鳥が吐血したらしい。

まわりで、俺たちの会話を聞いていた陽向も驚いている。

「陽向、朱鳥が吐血したらしいから、ちょっと迎えに行ってくる。」

「おう、わかった。念のため内視鏡用意しとくな。」

「うん、よろしく。」

吐血?

お腹も痛いって言ってたし、胃潰瘍とかかな?

朱鳥も、怖がってたし早く行かないと。

朱鳥の事だからパニックになってないといいんだけど……

マンションに着き、急いで朱鳥の元へ向かう。

エレベーターを待つ時間さえも長く感じる。

ガチャ

「朱鳥!大丈夫?」

「…ふぅまっ!!……グスッ…………怖い…私、死なない?」

「大丈夫。俺が守るから。早く、病院行って処置しよ?そしたら、もう大丈夫だから。」

コクン

微かに震えている朱鳥を抱っこして病院に向かう。

病院に着くと、陽向が玄関の所で待っていてくれた。

「楓摩、車椅子持ってきた。検査室も空いてるし、いつでも大丈夫だよ。」

「ありがと。朱鳥、これから、ちょっと移動して、検査するからね。」

「え……」

「大丈夫だよ、朱鳥ちゃん。不安にならなくても大丈夫。すぐに終わるから。」

検査室に着くと、朱鳥はより不安そうな顔をした。

陽向はすでに、検査着に着替えていたが、俺はまだなので、朱鳥を陽向に任せて、着替えに行く。

急いで戻ると、陽向は朱鳥のグズり様に、手こずっているようだった。

「陽向、ありがと。朱鳥ー、ほら、ちょっとだから我慢してー。これ、喉の麻酔だから、頑張って飲み込んで?そうじゃないと、痛いよ?」

「変な味するぅ……」

そう言って、顔をしかめたまんま、飲み込もうとしない朱鳥。

「我慢。後で痛い思いするのは朱鳥だよ?」

「んーん………………飲めた……」

「よし、偉いね。じゃあ、次はこの横向きでこのベッドに寝て?」

そう言って、ベッドをポンポンと叩いて寝っ転がるように促すが、朱鳥は全然寝ようとしない。

「あーすーか、早くして?自分で出来ないなら、無理やりやっちゃうよ?」

そう言うと、しぶしぶ寝っ転がった。

今日の朱鳥は、そうとう機嫌が悪いのか、言う事ほとんどに反抗してくる。

「よし、じゃあ、鎮痛剤、注射するね。」

「やだ!」

「朱鳥ちゃん、注射しないと、後で辛いよ?少しだから我慢しよ?」

「やぁ……」

まだ、何もしてないのに涙目の朱鳥。

まじで、今日の朱鳥の機嫌はやばいぞ。

「朱鳥、ほら、ちょっとだから。がーまーん。」

そう言って朱鳥の腕を取ると、ポロポロと泣かれてしまった。

困ったなぁ……

「朱鳥、ごめんね?でも、このままほっとくと、後で朱鳥が怖い思いとか痛い思いするんだよ?ほっといたら、最悪、手術しないといけなくなるかもしれないし、死んじゃうかもしれないんだよ?」

「……やぁ…………」

「じゃあ、すぐに終わらせるから、その間だけ我慢。ほら、やるよ?」

すると、今度は素直に手を出してくれた朱鳥。

よっぽど、手術が怖かったかな?

注射を打つと、やっぱり泣いてしまったけど、痛いとは言わずに我慢してくれた。

「よく我慢したね。じゃあ、後、我慢するのはもう一つだけね!内視鏡っていって、このカメラを口から入れて胃の中とかを検査するから、少し苦しいけど頑張ってね。」

マウスピースを噛ませて、カメラを口の中に入れていく。

朱鳥は、ギュッと目を瞑り、怖さに耐えているようだった。

「大丈夫だよ、朱鳥。怖くないから、力抜いて、このカメラ、ゴクンって飲み込んでくれる?」

朱鳥が飲み込む、時に合わせて、カメラを食道へと進める。

反射的にカメラを吐き出そうとしたが、少し我慢してもらった。

陽向は、朱鳥の背中を擦りながら朱鳥を励ましている。

「あ、血、出てる。」

胃に到達して、カメラで検査していると、胃潰瘍と思われる所から出血していた。

「ほんとだ、出血しちゃってるな。じゃあ、このまま処置するか?」

「うん、そうだね。朱鳥、これから1回休憩挟んで、それから処置するね。検査はこれで終わりだから、カメラは出すけど、もう1回口から物入れて、処置するから、それだけ頑張ろ?」

口からカメラを出して、口元を拭いてあげると、朱鳥は、すぐに飛びついてきた。

朱鳥を抱っこすると、朱鳥は少しだけ泣いていた。

「おぉ、どうした。怖かった?」

コクン

「そっか、でも、これだけ頑張ったら、お腹も痛くなくなるし、血を吐く心配もなくなるからね。あとちょっと!!ちょっとだけ、頑張ろうね。」

そう言いながら、よしよしと頭を撫でて、ギューッと抱き締める。

その間に淡々と処置の準備を進めてくれている陽向。

本当に助かるな。

「よし、じゃあ、あとちょっとだから頑張るよ!!ほら、もう1回寝て?」

朱鳥をベッドに下ろすと、寝っ転がってくれたけど、イヤイヤと、首を振り、口を開けてくれない。

「朱鳥?大丈夫。さっきと同じだから。朱鳥は、楽にして寝っ転がってればいいんだよ。」

「……やぁ………………怖いもん…」

「朱鳥ちゃん、大丈夫。朱鳥ちゃんが、目を瞑ってる間に終わるから。もし、怖かったら眠っててもいいからさ。ちょっとだけ、お口開けてくれないかな?」

すると、朱鳥は、ほんの少しだけ口を開けてくれた。

「うん、偉いね。じゃあ、ちょっと我慢だよー」

朱鳥は、目を瞑り、器具を胃の中に入れたあと、陽向に言われた通り、ぐっすり眠った。

元から、熱もあったから、本当は怠かったのだろう。

その後、無事に処置も終わり、今日は一旦、朱鳥を病院で寝せる事になった。