雨が降ってきた。

さっきの人たちは、近くを人が通ったらしく、バレることを恐れて、私をおいて逃げていった。

私の服は、所々破られていて、素肌が出ている。

殴られたり、蹴られた所の傷口に雨が染みて痛い。

それに、凄い薄着のうえ、素肌も出ているから、とても寒い。

バカだなぁ、私。

これが、楓摩に見つかったら、余計に迷惑かけるだけじゃん。

歩いて、帰ろ。

その方が、迷惑はかかんないよね。

震える足で、なんとか立ち上がる。

来た道を戻って行くと、大きな通りに出た。

雨のせいもあって、人通りは少ない。

でも道行く人たちは、私の姿を見て驚いたような顔をする。

あ、そういえば、今日って本当は学校行けるはずだったんだっけ?

私のバカな行動のせいで、それも無くなっちゃった。

ほんと、バカだな。

しばらく、歩いているとマンションが見えてきた。

楓摩、いるかな?

マンションに入り、家の前まで着く。

着いたことで安心したのか、気が抜けて、ドアの前でペタンと座り込んでしまう。

我慢していた怖さも全部吹っ切れて、涙が頬を伝う。

ここまでは、来れたのに、体が痛くなってきて、動かない。

私は、ただ、何をするでもなく、ただ涙を流しながら、そこに座っていた。

ウィーンという、音がして、エレベーターのドアが開く。

「…………あ、すか?朱鳥?朱鳥なの!?」

「……ふ………………ま…?」

楓摩は、一瞬、驚いたような顔をしてから、すぐに心配そうな顔になった。

「朱鳥っ!!大丈夫!?どうしたの、これ!?凄い冷えてるし、しかも酷い怪我、それに、服も…………。とりあえず、家に入ろ?」

楓摩に、手を引かれるが、もう、立つ力も残ってない。

「朱鳥、立てない?」

コクン

「じゃあ、抱っこするね。」

楓摩に抱き上げられて、家に入る。

温かい…………

ソファーに下ろされて、全ての力が抜け、倒れ込んでしまう。

また、涙が頬を伝った。

「朱鳥、とりあえず、寒いから服、着替えよっか。自分でできる?」

手に力を入れようとするけど、震えて、うまく力が入らない。

「無理そうだね。少し、恥ずかしいかもしれないけど、着替えさせるね。ちょっと、ごめんね。」

楓摩に、服を脱がせてもらい、新しい服を着せられる。

髪の毛も濡れていたから、タオルで拭いてくれた。

「朱鳥、まだ寒い?一応、暖房は入れたんだけど、まだ、手、冷たいね。ちょっと、まってて」

そういうと、楓摩は、洗面所の方へ行って、温かいお湯を入れた洗面器を持ってきた。

「朱鳥、起き上がれる?もし、できるなら、ここに手入れてごらん?暖まると思うからさ。」

ソファーに、よしかかるような体勢で床に座り、ローテーブルに置かれた洗面器に手を入れる。

冷えていた手がじわじわと温まってくる。

さっきから、涙が溢れて止まらない。

楓摩は、ずっと私の頭を撫でていてくれる。

”お前なんていなければ……”

また、これだ。

私、そんなに、居たらダメなのかなぁ……

人の迷惑にしか、ならない存在。

それは、本当だよね。

でも、存在することくらい……許してよ…………

私だって………本当は生きたいもん。

もっと、ワガママに生きたいもん。

「……ふぅま…………」

「ん?どうしたの?」

「私………生きてても…いぃ……の?」

「えっ…………」

「…私、いらない存在。…………だから、居ても……いいのかな………って………………」

なんだろ、最近は、情緒がおかしいよ……

自分でも、わかる。

情緒が不安定すぎて、もう、なんだかわからない。

「朱鳥、朱鳥が不安なら、何度でも言う。俺には朱鳥が必要なの。たとえ、誰かが朱鳥の事を要らないと言ったって、俺にはそんなこと関係ない。だって、俺は、朱鳥が必要だから。だから、生きて。」

楓摩は、私の事をぎゅーっと抱きしめた。

楓摩のその言葉が、私がこの世界にいる理由に聞こえた。