ピリリリリッ!ピリリリリッ!

あれ、どうしたんだろう。急患かな?

まだ、午前中だから、俺は休みのはずなのに。

「はい。もしもし、清水です。」

”おい、楓摩!何してんだ!?急いで朱鳥ちゃんの病室に来い!”

電話の相手は陽向だった。

陽向から、朱鳥の話なんて珍しいな。

「え?どうしたの?」

”どうしたの?じゃねーよ!バカかお前っ!?そんなモタモタしてたら、朱鳥ちゃん死ぬぞっ!?”

「はっ……」

朱鳥が……死ぬ…………?

”おい、楓摩!おい、無視すんな!お前っ……”

俺は、無我夢中で走り出していた。

陽向の声なんて聞こえなくて、もう頭には朱鳥の事しかなかった。

朱鳥。

朱鳥に何があった!?

死ぬ!?

そんなバカな……

だって、朱鳥は…朱鳥はあんなに……

さっきまで、あんなに元気で、俺と喧嘩する前までは、ちゃんと笑ってて…

あんなに、笑顔だったのに………

なんでっ!?

なんでっ!?























ガラッ

「陽向っ!!朱鳥はっ!?」

病室に入った途端、俺は言葉を失った。

ガッガッガッガッ

と、いう規則的な音に合わせて、陽向が動いている。

えっ………………

……心肺蘇生?

「楓摩っ、お前何してんだよ、突っ立ってないで、手伝え!!」

朱鳥から、繋がる心電図には、普通ならありえない、心臓の動きが示されていた。

「朱鳥ちゃん、頑張れー!まだ、死んじゃダメだよ!」

俺は、頭の整理が追いつかなくて、ただただ、それを見続けている事しかできなかった。

しばらく、して心臓の動きが安定してきた。

ピッピッピッ……

「これで、ひとまず、一命は取り留めたな……」

正常な心臓の動き。

朱鳥は、助かった……?

俺は、ホッとしてか、体の力が抜けて、床に座り込んでしまった。

涙が頬を伝う。

よかった……

今までいた、看護師さん達も続々と自分の仕事へ戻っていき、病室には、俺と陽向と朱鳥の3人だけになった。

青白い顔で眠る朱鳥。

その腕には、包帯がグルグルと巻かれていて、もう片方には、輸血のパックがたくさん繋がれていた。

朱鳥の下にあるベッドのシーツは、真っ赤に染まっていた。

「楓摩、聞け。」

顔をあげると、さっきので汗をいっぱいかいていている陽向がいた。

「楓摩、今までどこにいた?」

「……屋上」

「なんで?」

「頭…冷やそうと思って……」

「なんで?」

「朱鳥と…喧嘩したから…………」

まさか、こんな事になるとは、思わなかった。

頭冷やして、落ち着いてから、朱鳥の所に行けば、きっと許してくれるだろう。

そう、思っていた。

パシッ

頬に衝撃が走る。

それから、遅れて痛みがジンジンと出てきた。

「お前、バカじゃねーの?俺が気づくのが遅かったら、今頃、朱鳥ちゃん死んでたぞ!?何してんだよ。お前は、彼氏とかである前に、朱鳥ちゃんの主治医だろ?なら、きちんと責任もって、患者を簡単に死なせんなよっ!ましてや、彼女だろ?今回ばかりは、俺も呆れた。」

そう…だよな…………

俺、本当に何してんだろう…

ごめん…

ごめんね……

ごめんな、こんな彼氏で…………

後悔の気持ちばかりが、胸を焼く。

「朱鳥、ごめん…ごめんな……俺、ちゃんと朱鳥の事守ってやれなかった…………。本当にごめんな……」

さっきよりも、大きな涙が朱鳥のベッドにシミを作る。

「楓摩、お前、なんでこんなことになったか、知ってるか?」

「え……?」

涙を拭い、陽向の顔を見る。

陽向の目は、とても悲しそうな色をしていた。

「これは、あくまで俺の想像に過ぎないんだが、朱鳥ちゃんは、たぶん、自分の意思でこんな事をしたんだと思う。」

「…………」

言葉が出ない。

「きっと朱鳥ちゃんは、自分で点滴を抜いて、今回は、留置針で針が太かったし、それに白血病って事もあったから、それで血が止まらなかったんだと思う。」

なんで、なんで朱鳥はそんな事をしたんだろう?

朱鳥の腕に触れる。

そっと、包帯を外していき、傷口を確認する。

たった2mmくらいの小さな傷口。

でも、無理矢理引っ張ったのか、傷が深くなっている。

ここから、あんなに大きなシミができるほどの血が流れるなんて、どれだけほっといたんだよ。

「それで、血が止まらなくなって、出血性ショックで、意識を失った。そういう事。」

朱鳥は死にたかったのか?

だって、そんなに血が出てたら嫌でも気付くだろ?

なんで

なんで?

今は、そんな事しか考えられなかった。