「これ、クリスマスプレゼント。」

 差し出されたのは住所と部屋の番号が書かれたメモ。そして鍵。

「ひかりちゃんの心が決まったら、いつでも。今日はね、気持ちを伝えることとこれを渡したかったんだ。」

 ここから比較的すぐの場所。駅前で、利便性も良い。好きなシンガーソングライターからの誘いを断る理由の方が本当はきっとない。ファンであるのならば尚更。それなのにすぐに行きますと言えないのは、あまりにも現実離れしているからと、勇気がいつだってないからである。
 懐かしい気持ち、驚いた気持ち、それでもどこか嬉しい気持ち。感情がぐるぐる回って落ち着いてくれない。

「レオくん。」
「ん?」

 さらりと揺れる淡い栗毛色の髪。優しく香る、自分の家ではない匂い。優しい笑顔も相まって、より一層心拍数を上げてくる。

「レオくんの本当の名前は柊木怜音で。」
「うん。」
「シンガーソングライターの冬木レオンで。」
「うん。」
「10年前のあの男の子?」
「そうだよ、ひかりちゃん。」

 即答だ。

「そして、えっと…ずっと私のことを…。」
「好きだったよ。そして今も、やっぱり好きだなって思う。びっくりしてても僕を家にあげてくれるところとかさ。優しいひかりちゃんがちゃんといてくれて、…すごく嬉しい。」

 顔が熱い。29年間、恋愛なんてしたことがなかった。人を好きになったことはあっても、片想いばかり。人に想いを伝える言葉は知っているのに、勇気がなくて声にならない。それなのに8歳も年下の21歳の男の子は、想いをこんなにも真っ直ぐに伝えてくる。

「何度でも言えるよ。ひかりちゃんのことが好き。大好き。だーい好き!」
「い、いい!わかった!大丈夫です!…い、言われ慣れてないというか…そんなこと言われるの男の人からは初めてっていうか…だからえっと…あのね、どうしていいかわからないっていうか…。」

 情けない話だと自分でも思う。しかし、レオは嬉しそうに微笑んだ。

「ライバルがいないなら、ちょっと安心。彼氏がいたら略奪愛になってたからね。」

 さらりと怖いことを言う21歳だ。最近の子は怖い。

「りゃ、略奪愛って…!」
「…ゆっくり知ってもらうから。僕がどれだけひかりちゃんを好きか。」

 待ちぶせサンタは、とんでもない爆弾ばかりを落としていく。赤くなるばかりで全くスマートに対応できないひかりを残して。
 その時、ぐうと場にそぐわない音がした。

「あ。」
「お腹、空いてるの?」
「実は。」
「残り物で良ければありますが…。」
「ひかりちゃんの手作り!?やったー!」