【目を開きながら見た夢】





「ねえ、聞いてる?」

 彼が怪訝な顔でわたしの顔を覗き込んで、はっとした。

「ああ、ごめん。寝てた」

「いや起きてたでしょ。目ぇ開いてたじゃん」

「ううん。夢見てた」

 目を開けたままだとしても、これは夢なんだ。夢に違いない。現実のはずがない。だって……。


「どんな夢?」

「プロポーズ、される夢」

 言うと彼は表情を崩して笑って、こう言った。

「それ夢じゃない。オレ今プロポーズした」

「……へ?」

 現実のはずがないのだ。
 だってこんな、わたしの部屋のリビングで、いつも通り夕飯を食べにやって来た彼が、永遠の言葉を囁くわけないもの。

「結婚してください」

 一人暮らしを始めた頃から何年も使っている円卓に、きらきら光る宝石がついた指輪が置かれるわけないもの……。

「……」

「い、いででででで……!」

 夢じゃないかと疑って、試しに彼の頬を引っ張ってみたら、尋常じゃないくらい痛がったから、どうやらちゃんと現実らしい。

「……もう一回、言って?」

 頬を擦りながら彼は笑う。笑いながらもう一度、本日三回目の言葉を囁く。

「結婚、してください」

「……はい」


 夢じゃなくて良かった。ちゃんと現実で良かった。

 三度のプロポーズに応えるよう「はい、はい……」と頷いて、思いっきり引っ張ってしまった彼の頬に手を伸ばした。

 彼はその手を取って、わたしの指に、テーブルに置かれていたそれをはめたのだった。
 きらきらした宝石が光るその指輪は、ひんやり冷たくて、なぜだかとても重い。

 その冷たさも、重さも、喜びすらも、すべてすべて現実だった。








(了)