「ねえ、今日からうちに住みなよ」

 夕飯の後片付けを終える頃、京平がそんなことを言った。

「実は布団一組買ってあるんだー。ピンク色のやつ」

「わざわざ買わなくてもいいのに」

「だっていつも同じ布団狭いって言ってたから」

 確かにシングルサイズの布団にふたりで入るのはちょっと狭い。だから京平の部屋に泊まるとき、わたしは夜中にこっそり布団を抜け出して、ソファーで寝ていた。
 なんならこれから先もソファーで良いくらいだ。なんたって寝心地が良い。

 それを言うと、京平はきょとんとして首を傾げ、……。

「でもあのソファーには先客がいるし」

「……え?」

「あれ? 見えないの? そこのソファーに座ってる、パジャマを着た男の子」

「……」

 結婚に、一抹の不安がよぎった。
 そして決めた。二度とあのソファーでは寝ない。一緒に住むならもっと広い部屋に引っ越して、家具を一新する。リサイクルショップにびっくりするくらい安価で売っているものには手を出さない、と。

 もしかしてこの指輪もリサイクルショップで見つけたものじゃないかと疑ったけれど、本人曰く「違うよー、給料三ヶ月分だよー」とのことらしいから、それは信じておこうと思った。








(了)