【ベターハーフ】






 夜が明ける頃に帰って来た啓太と入れ替わるように、わたしはベッドを抜け出し家を出る準備を始める。

 本当はもっと夫婦らしいことがしたいんだけれど、お互い仕事だから仕方ない。

「……ん、菜緒?」

 枕に埋めた顔を半分だけ持ち上げて、啓太はわたしの名を呼ぶ。

「あ、ごめん、起こしちゃった?」

「んーん。起きたの。夢見てて……」

「夢? どんな?」

「菜緒が掃除して洗濯してご飯作って、仕事行く夢……」

「それいつものことじゃん」

 掠れた声でくつくつ笑って、啓太はのそりと身体を起こす。

 寝室から出ようとしていたわたしは、愛するひとのために踵を返す。

 隣に座ると、ギシという音と共にベッドが揺れた。

「菜緒」

「うん」

「行ってらっしゃい」

 そう言うわりに、伸ばした腕をわたしの頭の後ろで交差させて、拘束する。言っていることとやっていることが真逆だ。

「啓太ー?」

「だって。口だけだもん、行ってらっしゃいなんて言うのは」

 心では思ってないもん、と。啓太は口を尖らせて言う。

「本当はこのままベッドに引き摺りこんで、一日中隣で寝ていたいんだよ」

 それはわたしも同じだ。啓太の仕事は出張も残業も多くて、なかなか一緒に居られないから、同じ時間に家にいるときはベッドに縛り付けておきたくなる。


「待たせるのはオレの得意技だから」

「うん」

「たまには菜緒がオレを待たせてよ」

「うん?」

「今日と明日、休み取れた。だから掃除して洗濯して、夕飯作って待ってるね」

「ほんと?」

「ほんとほんと」

 嬉しい告白をして、白い歯を見せてにかっと笑う啓太に抱きついた。

 啓太はせっかくセットしたわたしの後頭部を撫で回し、ぐちゃぐちゃにする。

「あーっ、ちょっと、髪ー!」

「んふふふふ」

 仕返しにわたしも、啓太のぼさぼさ頭を、さらにぼさぼさにしてやった。



 あなたと結婚して本当に良かった。

 あなたはわたしを待たせるし、わたしは待ってばかりだけれど。
 あなたはわたしを支えてくれるから、わたしは全力であなたを支えたいと思う。

 あなたとわたし。よりよい半分に、なりたいんだ。









(了)