いつも通りソファーで仰向けに寝転んで左の手のひらを眺めていたら「いい加減忘れろっつったべ」と槙村が嫌そうな顔をした。 そんなに嫌がらなくてもいいのに。やつにとっては思い出したくない出来事なのだろう。申し訳ないけれど、十五年間続けた習慣はもはや日常と化し、簡単にやめることなんてできそうにない。 だからわたしは。 「指輪を見ていただけだよ」 そんな嘘をついて、真新しい指輪に口付けた。 (了)