【だって嬉しくて、】





 これはまずい。物凄くまずい。
 どのくらいまずいのかと言うと……ちょっとすぐには良い例えが見つからないけれど、とにかくまずい。

 仕事帰りに大ちゃんの部屋に行って夕飯を作っていたら「トイレットペーパー切れてたの忘れてた、買って来る!」と、部屋の主が慌てて飛び出して行った。
 でも大ちゃんが帰って来る前に夕飯の支度が終わってしまって、手持ち無沙汰なわたしは、リビングに脱ぎっぱなしになっていた彼の服を手に取った。
 シャツと靴下は洗濯機。スーツやネクタイはちゃんとハンガーにかけておかないと皺になってしまう。営業であちこち歩き回る彼の服がしわしわだったら、取引先の人に悪印象を与えてしまうかもしれない。

 ちょっと寝室に失礼して、ハンガーを探してクローゼットを開けた、ところで、今世紀最大のまずさを味わうことになってしまった。

 クローゼットの中、右半分にはスーツや服がかけてあり、左半分には収納ボックスや空き箱がいくつか重ねられている。その収納ボックスの上には、明らかに指に付けるアクセサリーが入っているであろう小箱と、明らかに役所からもらってきたであろう書類、そして付箋だらけの結婚情報誌……。

 結婚情報誌なんて、誰と結婚するつもりでこんなにチェック入れてるのよ! なんて冗談も言えないくらい、明らかに明らかな状況。明らかに明らかな、やっちまった感。

 大ちゃんは……大ちゃんは……、プロポーズしようとしているのだ。
 他でもない、わたしに……。


 付き合って三年。結婚を意識していなかったといえば嘘になる。
 ただ、今のこの状況が状況だけに、どうしていいのか分からない。

 とりあえずクローゼットを閉めて、見なかったことにした。

 ハンガーは諦め、スーツと共にリビングに戻ってソファーに沈む。