それにしても、父が自分達をここに呼んだ理由が早く知りたい。先を急いだ執事に報いてやらなければ。そう思ったアタシは、未だ緊張が取れないらしい群より先に言葉を放った。



『……パパ、アタシ達をここへ呼んだ理由は?』

『あぁ、そのことだ。皐の緊張感のなさはいつものことだから、お前達も気にしないようにな。』



 父の言葉に母は『まぁ酷い』とクスクス笑う。父は困ったような笑みを浮かべ、群に視線を合わせた。



『未来の身を案じて、来てくれたんだろう?娘はいつもお前の世話になっているな。』

『……いえ。こちらこそ、未来の存在にいつも支えられております。彼女に何かあっては正気でいられません。』



 群はアタシを見て穏やかに微笑う。母に「イタリア育ちは愛情表現がストレートねぇ」と言われ、彼は「ええ、イタリアに拉致されて八年になりますからね」と返した。日本語の呑気なやり取りに、父が僅かに頬を緩ませる。

 拉致ではなく“スカウト”だろう。そう思ったけれど、アタシにはそれよりも気になることがある。たった今母と会話した青年のスーツの袖を掴み、彼の顔がこちらへ向くのを待った。