『群は相変わらず堅いな。そろそろ“お義父さん”と呼んでくれても良いんじゃないか?』

『いえ、そのような訳には参りません。自分はまだ婚約者の身ですから。』

『そうかそうか。お前は他の輩と違って芯がしっかりしているからな。私も安心して未来を任せられるよ。』

『ありがとうございます。』



 二人のそんな会話を聞きながら、椅子に座る父の傍らで微笑している大人しそうな日本人女性が一人。彼女がアタシの母・皐(さつき)だ。

 性格と目元は父親似のアタシだけど、鼻筋や口元、仕草は母親似らしい。フフフと穏やかに笑っている彼女を見ていると、益々謎だ。一体何故、マフィアの血を受ける者と結婚したのだろう。



「……あら、なぁに未来?ママの顔に何か付いてる?」



 耳に入った日本語でハッと我に返った。流れる黒髪をサラリと掻き上げるその姿が、何となく自分にそっくりなのだと分かる。周りにそう言われるように。

 父に視線を戻せば、彼は『相変わらず緊張感のない奴だ……』と呟いた。勿論、こんな状況でにこやかに笑んでいる母のことだ。だが、その口調はとても優しい。愛しい者を愛でる態度に他ならなかった。